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札幌地方裁判所小樽支部 昭和33年(わ)95号 判決

被告人 少年C(昭和一七・三・二八生)

主文

本件を札幌家庭裁判所小樽支部に移送する。

理由

本件公訴事実の要旨は、「被告人は、小樽市○○町△丁目○○番地A方が平素女子供だけで留守居をしていることを知り、夜間窃盗の目的で同人方に忍び込み気附かれたときは居直り強盗をしようと企て、昭和三三年六月三日午前一時過頃布切で覆面し、且つ家人を縛り上げる用意に細引を携帯して、同人方横硝子窓をあけて室内に入り金品を物色中同人方の長女B子(当十三年)が眼を覚ましたので、その犯跡を湮滅し、且つ逮捕を免れるため矢庭に寝ている同女の上に馬乗りとなり、手で同女の口をふさぎ騒ぐなと言つて脅迫した上携帯した右細引で同女の両手を前に縛り手拭で口に猿ぐつわをする等の暴行を加えてその反抗を抑圧したところ、俄かに劣情を催して同女を強姦しようと決意し、同女の上に馬乗りとなつたまま同女の寝巻「ズボン」を足で引下げ下半身を裸にし強いて同人の陰茎を同女の陰部に押入れて同女を姦淫し、以つて強盗婦女を強姦したものである。」というのであつて、右事実は

一、B子の司法警察員(二通)及び検察官に対する各供述調書

一、司法警察員作成の実況見分調書

一、被告人の司法警察員及び検察官(二通)に対する各供述調書

一、被告人の当公判廷における供述

等を総合すれば証明十分であり、刑法第二四一条前段に該当する所為である。

そこで被告人を刑事処分に付するのが相当であるかどうかにつき考察すると、本件記録によれば被告人は漁業を営む父D(昭和三三年六月一〇日死亡)母E子の五男として本籍地において出生し、昭和二九年四月一日○○中学校に入学したのであつたが、昭和三〇年頃より異性に対する性的犯罪傾向を現わし始め同校在学中

一、昭和三一年五月二五日頃○○市××簡易郵便局事務室において現金約四、九〇〇円を窃取し

二、同年一〇月二〇日午後七時頃同市所在国鉄××駅附近国道上はおいて昭和一一年三月一二日生の女子に対し強姦致傷罪を犯し

三、同年一二月六日午後四時頃同市所在○○市にかかる○○橋附近で昭和一九年二月一九日生の○○中学校一年に在学中の女子に対し強制わいせつ罪を犯し

たということで旭川家庭裁判所の同年一二月二五日付決定で初等少年院に送致され、昭和三二年一二月五日○○少年院を仮退院後○○市の実家が貧しいので姉F子の夫で小樽市××町△丁目△△番地に居住するG(会社員)方に止宿し保護司の監督を受け乍ら同市××町にある印刷所に月収約五、〇〇〇円を貰つて通勤していた間に本件犯行に及んだのであることが明かである。このように被告人に非行歴中には窃盗罪も一、二あるが(本件の場合窃盗は未遂)、特に性的犯罪傾向が昭和三〇年頃より現われるようになつたことが問題であつて、本件の如き重い犯罪を少年院仮退院後僅か半年位で敢行したこと(被告人は本件強姦の手口は少年院におる間に教えられたと自供している。)、被害者も年少者であり又再犯のおそれも濃厚であること等犯情も極めて悪質といわなければならない。

しかし乍ら、他方

一、被告人が家庭裁判所の審判を受けたのは前記旭川家庭裁判所における一回だけであること

二、被告人は本件犯行当時漸く一六歳に達したばかりであつて、未だ精神的肉体的発育の途上にあり、特に最近顕著になつた性的犯罪傾向についても厳格なる矯正手段よりも情操教育等精神面における指導方法によるのが有効ではないかと考えられること

三、被告人の実家は貧困家庭であつて、父親や長兄Hには窃盗等の前科があるようであるが、被告人自身には他に重大なる資質上の欠陥が認められないこと

四、被告人には少年らしい素直さも認められ、本件犯行についても充分反省しており改悛の情も顕著であること(特に被告人の勾留中における父の死亡がこの点について大きな契機になつたように見受けられる。)

等諸般の事情に鑑み前述の如く極めて近い過去において収容保護に失敗の前例が一回あるけれども現在直ちに被告人の刑事責任を追求して少年刑務所に送るよりも、今一回家庭裁判所の充分な調査(本件について少年鑑別所の鑑別結果は記録上知ることが出来ない。)及び審判を経た保護処分に付することが被告人の更生に資する所以であると思料されるので少年法第五五条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 菅間英男 裁判官 片山邦宏 裁判長裁判官 小林健治は差支えにより署名押印できない。裁判官 菅間英男)

別紙 (移送後の保護処分決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は小樽市○○町×丁目△△番地A方が平素女子供だけで留守居をしていることを知り、夜間窃盗の目的で同人方に忍び込み気附かれたときは居直り強盗をしようと企て、昭和三三年六月三日午前一時過頃布切で覆面し、且つ家人を縛り上げる用意に細引を携帯して、同人方横硝子窓を明け室内に入り金品を物色中同人方の長女B子(当十三年)が眼を覚ましたので、その犯跡を湮滅し、且つ逮補を免れるため矢庭に寝ている同女の上に馬乗りとなり、手で同女の口をふさぎ騒ぐなと言つて脅迫した上携帯した右細引で同女の両手を前に縛り手拭で口に猿ぐつわをする等の暴行を加えてその反抗を抑圧したところ、俄かに劣情を催して同女を強姦しようと決意し、同女の上に馬乗りとなつたまま同女の寝巻「ズボン」を足で引下げ下半身を裸にし強いて同人の陰茎を同女の陰部に押入れて同女を姦淫し、以つて強盗婦女を強姦したものである。

(罰条)

刑法第二四一条前段

(主なる問題点)

一、少年は昭和二九年四月○○中学校に入学したが、同校在学中

(1) 昭和三一年五月二五日頃○○市××簡易郵便局事務室において現金約四、九〇〇円を窃取し

(2) 同年一〇月二十日午後七時頃同市所在国鉄××駅附近国道上において昭和一一年三月一二日生の女子に対し強姦致傷罪を犯し

(3) 同年一二月六日午後四時頃同市所在○○川にかかる○○橋附近において昭和一九年二月一九日生の女子中学生に対し強制わいせつ罪を犯し

たということで旭川家庭裁判所の昭和三一年一二月二五日付決定で初等少年院に送致された前歴を有すること。

二、昭和三二年一二月五日○○少年院を仮退院後少年の姉F子の夫で小樽市××町△丁目△△番地に居住するG(会社員)方に止宿し、保護司の監督を受け乍ら同市××町にある印刷所に月収約五、〇〇〇円か貰つて通勤している間に仮退院後約半年で本件犯行に及んだものであり再犯のおそれが濃厚であること。

三、少年の性的犯罪傾向は昭和三〇年頃から顕著になつたものであるが、少年院仮退院後における前記G及び担当保護司の少年に対する指導監督方法にも適切を欠く点が多かつたこと。(実家は父親は既に死亡し母親には保護能力がない。)

四、少年は資質上重大な欠陥がなくその性格は一見温和で本件犯行についても若干反省の色を示しているが、他方剛情で閉鎖的な面もあり自己顕示性が強く周囲の人々に対する情性が稀薄であるように見受けられるのでこの点についての指導が再犯防止上特に肝要であると思料されること。

以上少年の年齢性格環境等諸般の情状並に本件については札幌地方裁判所小樽支部が少年法第五五条により当裁判所に移送したものであることをも総合考察し、直ちに刑事処分に付するよりも今一回少年院における矯正教育に期待するのが相当であると認められるので少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項少年院法第二条第三項を適用して主文の通り決定する、(昭和三三年九月六日札幌家庭裁判所小樽支部 裁判官 菅間英男)

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